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The Partner Of a Session

日内地 譲

Yuzuru Hinaiji

APARTMENT STORE
代表

1977年 浜松市生まれ
高校卒業と同時に家具職人を志して東京に。その後、洋服の販売員、ブライダルなど接客業などを経験するが、20〜24歳まで長野で住み込みのアルバイト等を経て(本人曰く、「山に引きこもった」)、一念発起。25歳の時、浜松に戻りショップをオープンすることを決意。2004年1月 浜松市南区芳川町にレトロ家具の店「アパートメンストア」オープン。2009年、これまで夢見て来た「お店のアパート」実現のため、現在の所在地・南区頭陀寺町の3階建てビル購入を決意。夫婦で力を合わせて自分たちの手でリノベーションを手掛け、3ヶ月で1階の店舗部分を完成させ再オープン。軌道に乗ると、家具店舗を2階に移動、1階をカフェに改装。レトロ家具とカフェ、そしてリノベーションの仕事も手掛けるようになり、現在に至る。今後は、リノベーションによる賃貸物件の提案も積極的に行って行く予定。

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こだわりの定義

感性を尊敬し合っているからチャレンジできた。

星野この度は、新事務所をカッコ良くリノベーションしていただき、ありがとうございました。テクイジデザインが新たに掲げるスローガン「Must be Cool 〜もっと感性を自由に。そして、思考と感性の融合したデザインを。〜」が実現できる、クリエイティブな空間になりました。
日内地ありがとうございます。星野さんにご満足いただけて、うれしいです。テクイジさんのリノベーションは、過去の施工例にはない、初めて取り入れたものもありましたし、感性を尊敬し合っている星野さんの事務所ということもあり、僕の中ではチャレンジの仕事でした。けれど、やり終えてみると、とても楽しい仕事をさせていただいたなと。僕の世界観を重視してくださったことに感謝しています。
星野それは僕も同じです。実際にリノベーションに着手してすぐに「業者選びのチョイスは間違っていなかった」と確信できましたからね。もともと日内地さんと感覚が近いと思っていましたし、そこが合う人なら細かいことを言わなくてもいい。ポイントを1つ言えば、10のことを返してくれるという感じで、その道のプロにお任せしておけば、想像以上のものができると分かっていましたから。だからあえて「こうして欲しい」ではなく、「どう思う?」と聞いて日内地さんがどう返して来るか試していた部分もあります。いやらしいですねェ、オレって・・・(笑)。

自分の世界観に染めようとする必要はない。

日内地あの質問にはそんな思惑があったんですね(笑)
星野すみません、試すようなことをして(笑)。でも思った通り、日内地さんは自分の感性からものを見て答えてくれましたよね。僕に寄せたり、押し付けたりはしなかった。たとえそれが僕の中にはなかったチョイスだったとしても、それ以上に良い提案をしてくれたので「じゃあそれで」となりました。イメージは変わりませんでしたし、ましてや質が落ちることもありませんでしたから、すべてが良い方へと進んで行ったと思います。
日内地ということは、僕の答えは間違っていなかったということですね。

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良かった(笑)。でも、そうですね、自分の世界観に“染めよう”と持って行く人もいますが、軸の世界観が合っていれば大きくズレませんから、染めようとする必要も、相手に寄せて行く必要もないと、僕は思っています。そういう意味でも、星野さんとの仕事は楽しかったです。星野さんはいろいろなことにすごくこだわりを持っているのに、それを押し付けてこない懐の深さを感じて、信頼されて任されていると感じられたのも、楽しく仕事ができた大きな理由だったと思います。
星野 世界観・感性・思考・センス……そういったものが合う人たちと仕事をすることは、僕の中でとても重要なファクター。それをもっと突き詰めて行くために、新事務所移転を決めたんですよ。
日内地 僕も最近、センスの合う職人さんたちと継続して仕事をすることの面白さを実感しているところです。「阿吽の呼吸」という感覚は大事だなと。

“こだわり”はあるけれど、実際はどうでもいい。

星野 日内地さんは、僕のことを「とても“こだわり”」があると言いますけど、僕と日内地さんの“こだわり”の定義というか感覚は、たぶん近いと思います。
日内地 一緒に仕事をさせていただいて、僕も感じました。“こだわり”はあるけれど、実はそんなものはどうでもいいものだと思っていて、自分が好きなものが好き、というだけなんですよね。いえ、自分にとってはどうでもよくないんですけど(笑)、他の人にとってはどうでもいいことだと思うんです。実際、ブランドとか値段ではなくて、見た目でピピッと来たものが好きなものだったりするので。それが安くても、高くても、ブランドものでも、そうでなくても、僕が好きと思ったら僕にとって「いいもの」になる。それを人に押し付けようとは思いません。
星野 その感覚、分かります。押し付けたらお互いが幸せじゃなくなってしまうし、仕事だったらWin-Winの関係ではなくなってしまう。“こだわり”と言葉にするとすごくわがままで、自分勝手なイメージが強いけれど、そうあるべきではないと思います。“こだわり”は自分が好きだというだけのもの。でも、それがあるから迷わずチョイスできる。仕事でもプライベートでも、ブレないから“こだわり”がある人だと言われるのだと思います。
日内地 自分の“こだわり”に対して琴線に触れた人たちが、集まってくる、ファンになってくれる。それが一番素晴らしいと思いますけど、仕事となるとそうもいかないことも多いですよね。
星野 それは僕たちのような仕事をしていると、誰もが抱えるジレンマです。
日内地 でもそれを実現するための、新事務所だったわけですよね。新たなスタートラインに関われたことに、改めてうれしく思います。

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“お店のアパート”をつくりたい

「25歳なら失敗しても何とかなる」と思えた。

星野 日内地さんも、自分のやりたいことを実現するために「アパートメントストア」を始めたんじゃないですか? 
日内地 ざっくり言うと、おっしゃる通りです。でもやりたいことを見つけるまではフラフラしていましたね。37歳になって振り返ると、よくもまあ、という感じです(笑)。家具職人になりたくて、高校卒業と同時に東京へ出て修行していたのですが、疲れて山に引きこもったんですよ。20〜24歳まで長野で住み込みのアルバイトをしていました。
星野 それはまた、今からは想像できない。
日内地 ですよね(笑)。25歳になって再び東京に戻って洋服屋に勤めているとき、家具のバイヤーになりたいと思っていたんですね。でもそのときに先輩から聞かされたのは「10年以上現場で経験を積まなければバイヤーにはなれない」という、いわゆる会社の慣例みたいなもの。「10年って言ったら、35歳じゃん!」と思ったら、浜松に戻って店をオープンすることしか考えられませんでした。「25歳なら失敗しても人生先は長い。何とかなるでしょ」って。
星野 勢いって大事だと思いますよ。無謀と勢いを一緒にされてしまうこともありますけど、日内地さんのは“勢い”。ジャンプするために勢いをつけるでしょう?そのときに足下がグラグラじゃ飛べないのと一緒で、下地も計画性もなければ勢いで動くことはできなと思いますから。
日内地 それはどうでしょう?今、商売を続けていられるから結果論な気もしますけど、ありがとうございます。でも、そうですね、目指したいものはありました。「D&DEPARTMENT PROJECT」の本との出会いは、僕のターニングポイントになりました。

「一生の仕事になる」と思えたから今がある。

星野 日内地さんが立ち上げたショップ「アパートメントストア」の名前の由来になっていると、以前聞いた覚えがあります。
日内地 「D&DEPARTMENT PROJECT」は僕の憧れ、やりたいことがそのまま実現されていると思いました。「アパートメントストア」を始めた当初から、複合的にいろいろやってみたいという夢が膨らんでいって、 “お店のアパート”のようなショップづくりを目指すようになりました。

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星野 複合的という考え方は、今こそ僕も持っていますが、独立した10年前には考えつきませんでしたね。依頼された仕事に追われる時期を乗り越えて、仕事の幅が広がったときに思ったんです。すべてのデザインの基礎がグラフィックデザインであると。イメージすれば絵が描ける。そこから無限大に広がって行く可能性を見た、と言えばかっこいいんですが(笑)、でも、やりたいことが見えてきたんですよね。それが、複合的という考え方。
日内地 目に浮かぶもの、頭で考えたものを具現化するのは、デザイナーの仕事ですよね。デザインはできませんが、同じような思考で生きていると思います。
星野 思い描いたものをカタチにしていくという過程は、同じです。「アパートメントストア」がまさにそうでしょう?
日内地 道半ばですが、自分がやりたいこと、一生の仕事になると思えたことがカタチになりつつあります。
星野 一生の仕事になる、と思えるものに出会えるかどうかは、大きいですよね。
日内地 僕はそれを見つけるまでに遠回りをしました。
星野 僕もです。最初からデザイナーだったわけじゃないんですよ。

日内地 そうなんですか?意外です。
星野 野球が大好きで、高校まで野球部。かなりの野球少年でした。大学でも続けられる実力ではないと思っていたので、野球のように夢中になれるものを探し続けました。けれど見つからなかったんですよね。一度はデザインと関係ない会社に就職したのですが、それはそれで向いていたし、やりがいもあったし、楽しかったし。でもふとしたきっかけでデザインという仕事に行き着いたんです。野球少年だったが故に忘れ去られていた自分の能力に気が付いた瞬間でしたね。
日内地 そういう話を聞くと、少しホッとしますね(笑)。遠回りが決して良いとは思いませんけど、一生の仕事に出会えたと思える人は、実はあまり多くないんじゃないかとも思うんです。それなら、遠回りもした甲斐があったなと思える。遠回りしていた時期に経験したことが、確実に自分のスキルになっているし、新しいことにチャレンジする際のモチベーションになっていますから。
星野 僕も、野球をやっているときと同じモチベーション、気持ちでデザインの仕事ができていることに気がついた時「一生の仕事になる」と思いましたね。思った通り今でも、同じ思いで仕事ができています。

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惹かれて行くようになって、気づいたら店の空気感が僕にストレスがないようなものになっていたんですよね。先ほど、自分の感性に染めようとは思わないと言いましたけど、お店に来てもらえるようにではなく、いつの間にか「この空気感を好きな人、分かってくれる人に来てほしい」というような感覚になっていたのかもしれません。今の僕は“常に素であること”を前提に、物や方向性をチョイスしています。
星野 そもそもカフェを作ったのはどういう理由が?
日内地 カフェをやりたかった、というのもあるのですが、「アパートメントストア」で売っているインテリアをただの家具にしないため、とでも言うのでしょうか……。昭和レトロの家具や雑貨って単体で見ても確かにおしゃれで、気に入っていただけることが多いんです。ですが、家に持って行って配置すると、おしゃれ感がなくなって、一気にその空間がただの“実家”になってしまうという残念なことになりがちなんです。有名建築家の建てた家でもインテリアがチグハグで残念な家になってしまうというのと同じ。それってやはり、センスの一言に尽きると思うんです。だから、家具と空間が調和した「アパートメントスト

素の自分であることがすべてのベース。

星野 「アパートメントストア」さんは、最初、雑貨屋さんからのスタートでしたよね。それが3階建ての自社ビルを持ち、カフェやリノベーションまで手がけるようになったのには、どんないきさつがあったんですか。
日内地 元々、「D&DEPARTMENT PROJECT」に憧れて、“お店のアパート”になることを目指していましたから、雑貨屋で終わるつもりはありませんでした。自分の感性を提案していったら、カフェとリノベーションという仕事がついてきた、という感じです。
星野 日内地さんがどうやって提案して行ったのか、興味深いです。
日内地 提案と言っても、お店の中で空間を提案していったんです。10年前に昭和レトロをテーマに店をスタートしたわけですけど、徐々に味のあるものに

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ア」スタイルの昭和レトロをカフェで表現したんです。こういう空間だからインテリアがおしゃれに見えるんです、と。
星野 空間というのは大切ですよね。それでますます日内地さんの感性に共鳴した人たちが集まるようになるし、家具や雑貨の売り増も見込める。
日内地 もちろん、そういう意図もありましたが「カフェを始めたい人、手作りでやれますよ」っていう「僕たちこんなこともできるんです」というのを見せて、自分たちがお店作りを手伝いますという仕事を広げようという意図もありました。そうしたら、手作りどころか、自分のキャパを超えるリノベーションの話が来てしまって、そのときは大風呂敷を広げた自分を一瞬後悔しました(笑)。
星野 それが、今ではリノベーションが主な仕事のようになっていますよね。
日内地 はい。キャパを超えたらそこは無理すべきじゃない。自分がやりたいと思っても、能力や時間に限界はありあますからね。それ以降、工務店や職人さんとチームを組んで仕事をするようになりました。そうすると、本当に自分のやりたかったことができるようになったり、次のステップに時間を割いたりできるようになって、今、かなり楽しいです。素の自分でいられることがすべてのベースだというのも、再認識できました。

下請けからの脱却が成功のカギ。

星野 最初はカフェ。自社ビルを購入して自分の手でリノベーション、そしてカフェのオープンをきっかけにリノベーションも手がけ。着々と夢を膨らませている訳ですけど、成功のカギは何だと思いますか?
日内地 誰でもできることが出来きる状態に満足しないこと。それではただの“下請け”仕事なんですよ。けれど、それでは生き残っていけないんです。自分がやりたいことを実現するには、提案できなければ成し得ないと思います。もちろん、“下請け”に成らざるを得ない時期だってあると思いますが、それに追われ続けるだけでは生き残ることさえできない。それに気づいて、抜け出したものが生き残って行く。僕と星野さんは、抜け出すためのモチベーションが、“複合的にやっていく”考え方だったということなんでしょうね。
星野 もちろん、ベースのグラフィックデザインがレベルアップしていくことに一番力をそそぐけれど。土台がぐらついたり先細ったら、複合的にやっていくことなんかできないし、生き残るどころか自滅してしまいますからね。
日内地 それは同感です。ベースは何であるかは、僕も常々忘れないように心がけています。もちろん「素である自分」です(笑)。

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柔能く剛を制す

星野 やはり日内地さんの感性や考え方は共感できますね。
日内地 僕の方こそ、この事務所のリノベーションを手がけさせていただいて、星野さんからはいろいろな刺激をいただきました。
星野 とんでもない!「こだわりが過ぎる!」と時々周りから言われる僕の意見をさらりと聞いて、全面的に取り入れるのかと思えば、それ以上のものを出してくる。だけど押し付けない、でも妥協もしない。物事の運び方は柔らかいのに、いつの間にか日内地ワールドに引き込まれてるという感覚。そしてそれが全く嫌ではなく心地いい。しかも、俺のこだわりは何だったんだと思うほど、素晴らしい方向を提案してくれたし。「柔能く剛を制す」っていうのは、日内地さんのためにある言葉だと思いました。
日内地 ありがとうございます。そう言われるのは初めてです。でも、そう思ってくださる方がいるならば、僕のやり方は間違ってもいないのだと自信になります。柔軟に間口を広げて、でもブレずに物事を進めるのは難しいことも多いですけれど。それでこの10年、悩んだこともいっぱいありますし。――実は、今も悩むことがひとつ。
一言で言えば、値段とお客様の層。浜松と東京では価値の感覚が違うことは分かっていましたが、東京では「いいね、そうだよね、これくらいするよね」となるのが浜松では「いいけど高いね」になってしまう。ここがジレンマ。売りたいけど、価値のあるものを安くは売りたくない。
星野 じゃあ、僕が結論を言いましょう(笑)。高い方に会わせてください。価値があるものには理由がある。それは職人さんの技術だったり、デザイナーの感性だったり、いろいろですが、そういうものを付加価値と言ったりします。でも僕は、正当な対価だと思うんです。そこにお金がかかるのは当然ですし、買う人はそこにお金を払うべき。そういう部分をリスペクトしてくれるお客様は、日内地さん、「アパートメントストア」と感性や価値観を共有してくださる方たちだから、顧客様として長くお付き合いしてくださるでしょう。そういう方々こそを大切にしていった方がいいのでは?
日内地 分かっていても、踏み出せないでいましたが……新しいステージに行くためには選択も必要ですよね。
星野 東京を飛び越えて、世界へチャレンジできる仕事だと思うので、ぜひ新しいステージでの活躍を期待しています。そして僕の身近なモチベーションになってください。
日内地 星野さんの一歩先を歩き続けられるように、頑張ります。
星野 事務所のリノベーションと今日のインタビュー、本当にありがとうございました。ここで僕も突き抜けた創造ができるように、頑張ります。

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自分のターニングポイントになったのは、間違いなくこの本との出会い。
「D&DEPARTMENT」は、価値がなかったものに価値を与えたお店だと僕は感じていて、自分がやりたいことが全部詰まっている、理想そのものでした。その中でもこの本は、かっこいい昭和をコンセプトにしているのですが、僕の琴線にぐっと来ましたね。好奇心旺盛なのに飽きっぽい僕にとって、スタートラインを思い出させてくれる、大切なバイブルになっています。
あとは、浜マイクのインテリア本、映画「かもめ食堂」「めがね」なんかの世界観も好きで、こういうのを表現してみたいと思っています。

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This Shop

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「今回撮影にご協力いただいたお店」

APARTMENT STORE

レトロ家具&カフェ&リノベーションワークを融合して展開するショップ。
1階はカフェと雑貨を扱うショップで、土日はランチもいただけます。
2階は「APARTMENT STORE」の真骨頂であるレトロ家具のショップ。
これらショップの魅力をそのまま生かした「レトロテイスト」なリノベーションも人気を集めています。

Data

静岡県浜松市南区頭陀寺領350.7  T 053.465.3708
OPEN 土曜・日曜・月曜・火曜 12:00~19:00 ※ランチは土曜・日曜のみ
※月・火はリノベーション業務のためお休みになる場合あり
http://www.apartment-store.jp

  • Design tekuiji DESIGN
  • Photograph Indigohearts
  • Writer writer Moki