インスタントコーヒーで立話

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株式会社 茂木商工 茂木 宏之 Hiroyuki Mogi

「情熱の続き」

tekuiji DESIGN×difott 上履き入れプロダクトで、縫製を担当してくれた「茂木商工」。
建築士でもある「difott(ディフォット)」の後藤さんが描く
緻密な仕様書にも対応してくれると、信頼する縫製会社だ。
日本の綿帆布を使用したオリジナルバッグ「BLUE SWALLOW(ブルースワロー)」は、
丈夫で長持ち、そして使い手のことをよく考えて作られていると好評。
「茂木商工」の原点、こだわりのものづくりに対する想い、高い技術力の源を伺った。

「青つばめ」の名前の由来は「ヤクルトスワローズ」?!

茂木創業は曾祖父。創業当時は生地だけを販売する「茂木商店」という屋号で商売を始めたそうです。
祖父から叔父が継いだときに、加工も始めるようになり、「茂木商工」と改名したんです。
星野名刺や看板に入っている「青つばめ」という名前は、オリジナルバッグのブランド名「BLUE SWALLOW」のことだと思うんですけど、
なぜこの名前に? 
茂木「青つばめ」という名前は、東洋紡さんの登録商標である生地「星ツバメ印」から来ているんです。
当時、うちは東洋紡さんの特約店で、その生地を扱っていました。その後、その生地がなくなってしまいました。当時は生地の生産だけでなく、
自分たちで何かを作ろうというタイミングで、古い看板が残っていたので使おうということになって。つばめの絵が青かったので、
「青つばめ―BLUE SEALLOW―」ブランドのバッグが誕生しました。 
星野そうだったんですね。実は、「ヤクルトスワローズのファンだから」という答えが返ってきたら、野球ネタで盛り上がるかもと、
少し思っていたんです(笑)。
茂木そうでしたか。期待を裏切って申し訳ないです(笑)。
星野いえ、期待通りじゃなくて良かったです。「茂木商工」さんの歴史と布に対する想いを見た気がします。

サーフィンに情熱を傾けた時期があるから、今の自分がある。

星野茂木さんは「この仕事を継ぐんだ!」と小さい頃から思っていたんですか?
茂木そうですね。幼少の頃から、父や叔父が仕事をしている姿を見て、興味は持っていました。けれど最初は、全く別の仕事をしていました。
星野全く分野の違う仕事を?
茂木はい。大学生時代の3年間、ビルの清掃のアルバイトをしていたんですね。それで卒業してそのままその会社に就職しました。
というのも、趣味がサーフィンで……。
星野そういえば、1階にサーフボードが置いてありましたね。あれは茂木さんのものだったんですね。
茂木はい。それで、清掃の仕事は深夜が多いので、夜働いてその日の朝から休みだったり、土日に清掃に入れば平日は休みだったりと、
かなり昼間に自由な時間が持てるんです。そういうのもあって、その会社に就職したんです。その後、トラックの運転手などもやりながら、
サーフィンを続けていました。
星野それは、趣味以上の情熱を感じますね。プロを目指していたんですか?
茂木それは、どうでしょう?(笑)。ですが、本当にサーフィン中心の生活でした。けれどあるとき、やはりこれではいけないなと。
幼少の頃から興味を持っていて、「いつかは」と思っていた家業を手伝おうと思いました。遠回りをしたと言う人もいるかもしれませんが、
僕はサーフィンに情熱を傾けていた時期があったから今の自分があると、そう思っています。
星野僕と同じですね。僕も最初からデザイナーだったわけではなく、全く別の分野の仕事をしていて、社会人になってから
デザイナーを目指したんです。 けれど、野球に情熱を傾けていた高校生までの自分や、別分野で働いていた自分があって今があると、そう思っています。
ところで、サーフィンは今も?
茂木時々ですけど。あの頃は千葉に住んでいて海も近かったですが、今は東京。海が遠いのは少し寂しいです。
星野趣味のサーフィンを生かした商品の展開などは考えていないんですか?
茂木自分や友人のサーフボードケースや、薄い帆布でサーフィン用のトランクスを作っていますが、商売にはしていません。
ゆくゆくはそういった商品展開もできたらと思っています。


バッグがメインではなかった!スケールの大きい本業に驚き。

星野「茂木商工」さんの仕事としては、OEMやショップなどからの別注のバッグなどがメインなんですか?
茂木実は、バッグがメインではないんです。割合で言うと3割ほどです。
星野そうなんですか?
茂木はい。ちょっと分かりにくいかもしれませんが、帆布って実は意外なところで需要があるんですよ。例えば、防衛省の所有する
飛行機のガソリンを濾過するフィルターが綿帆布なのですが、そういったあまり一般の方が目にしないような商品を作るのがメインです。
星野おお!スケールが大きいですね!他には例えば、どんなものが?
茂木橋の耐震装置に被せるカバーなど、産業資材向けの商品はとても多いですね。元々、帆布は丈夫な布として使用されていましたから、
今も使われているということは、帆布以上の良いものがないとも言えるかもしれません。
星野帆布って身近で頼れるアイテムだとは思っていましたが、思った以上に高いポテンシャルを持ったヤツだったんですね(笑)。
茂木そうですね。もう少し身近なところで言うと、パンの生地を寝かせるためのシートを帆布で・・・と、こだわる大手のパン屋さんもあります。
星野そういった工業や商業向けの帆布製品を作っていると知ると、「茂木商工」さんのとても実直な仕事ぶりと高い技術力に説得力がありますよね。
バッグを買い求めるお客さんはみんな、そういった仕事ぶりにも惹かれるんでしょうね。
茂木そうだとうれしいですね。

プロフェッショナルには、こだわりのある人が集まる

星野ここに来るお客さんは“こだわり”を持っている方が多いんじゃないですか?
茂木そうですね。ショールームへ直接足を運んでくれる方は、ほとんどがオリジナルバッグを作ってほしいと依頼されます。
星野ショールームに並んでいるバッグは、オリジナルなんですよね?
茂木そうです。オリジナルバッグを気に入って買ってくださる方もいらっしゃいますが、個人のオリジナルやカスタムの他、
OEMやショップのオリジナルやコラボバッグなどの依頼も多いです。
星野そして今回、僕(tekuiji DESIGN)と後藤さん(difott)のオリジナル「上履き入れ」の依頼が来たと(笑)。
茂木なかなか難しい依頼でした(笑)。
星野僕と後藤さんはこだわりが強いとよく言われますから(笑)。ところで、後藤さんとはどういったきっかけでお知り合いになったんですか?
茂木後藤さんがオリジナルバッグブランドを立ち上げる際、ウチを見つけてくれたんです。いろいろ探したと聞いています。
星野彼もこだわりが強いから、きっとお眼鏡に叶うところがなかなか見つからなかったんでしょうね。その点、「茂木商工」さんは
日本の質の宵面帆布にこだわっていて、縫製においてもとても良い仕事をしてくれると聞いていました。それで、サンプルが上がってきたとき、
このまま商品にできる仕上がりだったことに驚きました。後藤さんと「もう、これが商品でいいんじゃない?!」と話していたくらいです。
それで、「茂木商工」さんのプロフェッショナルな仕事に興味を持って、ぜひお話を聞きたいと、今回の対談をお願いしたんです。
茂木ありがとうございます。
星野それで、ぜひ工場を見ながら、僕たちがお願いしたバッグの制作苦労話などをお聞かせいただきたいのですが(笑)。
茂木はい。ぜひ(笑)。


職人の知識と技術がアクセントになって、よりデザインが輝く

茂木ここ(1階)は生地や断裁など、2階と3階は縫製の作業場です。
星野いろんな道具があるんですね。職人の城という感じ。
茂木型紙を作るのに必要な道具が多いですね。そういえば、ご依頼のあったバッグ(上履き入れ)は、製図のような緻密な指示で、
後藤さんと星野さんの思い入れを強く感じました。
星野後藤さんは建築士ですからね。僕も見ましたが、確かに緻密だと思いました。もしかして、あそまで細かい指示をする人はいないんですか?
茂木そうですね。ミリ単位で指示された方は、おそらく、初めてです。そういえば、なぜ「上履き入れ」だったのですか?
星野僕も後藤さんも、子どもがいて、自分たちが子どものころから「上履き入れ」の形ってかわらないよね? という話になったんです。
そこから、じゃあ、自分たちがデザインしたらどんな「上履き入れ」になるだろうって、盛り上がって、「じゃあ、作ってみようか」となったんです。
茂木着目したのが「上履き入れ」というのは、すごく新鮮でした。そしていただいた仕様書を見て、これはなかった発想だなと。
星野僕たちも、話すうちにどんどんアイディアが浮かんできて、かなりわがままなお願いになってしまいました。でも、やはり
布の特長を知り尽くした職人さんの目と技術が入ると、こうなるんだ!と、素直に感動しました。
茂木ありがとうございます。こだわりは、このチラッと見える赤いテープですよね?
星野そうなんですよ!流石ですね!この見え具合は結構こだわりましたね。あとは取り外しができて洗える裏地とか。
言い出したらキリがないないですけど、僕たちの意図を汲んで仕上げてくださったことが伝わるサンプルの出来映えで、
後藤さんが信頼している職人技がこれか!と尊敬しました。
茂木そう言っていただけて、本当にうれしいです。ですが、後藤さんの仕様書は本当に精密だったので、その通りに仕上げただけですよ。
星野いや、それだけだったら、こうは仕上がってこないでしょう。「餅は餅屋に」じゃないですけど、
プロの目で見て、微調整した部分は多大にあると思います。
茂木褒め過ぎです(笑)。確かに、いつもご注文いただくオリジナルバッグなどの仕様書は、後藤さんのようなものは少ないですし、
ざっくり委ねられることも多いです。ですから、生地の特長を見ながら僕がアイディアを加えることもあります。けれど、本当に今回はほぼ仕様書通り。
逆に、こういうのもありなんだと、勉強にもなりました。
星野こだわりがありすぎるバッグだったと(笑)。
茂木いえいえ(笑)。その思い入れがデザインに見て取れて、これをきちんと形にしたいと、職人魂に火がつきました。とても楽しい仕事でした。
星野プロフェッショナルがチームを組んで取り組む仕事は、本当に楽しいと再認識しました。
平面のデザインと違った楽しさがプロダクトにはありますね。
茂木はい。頭の中にあったものがデザインに描き起こされ、立体になっていくのは、僕も楽しいと思っています。日暮里という生地問屋の聖地に、
デザインという形をプラスして、もっと日本の質の良い生地を広めていきたいですね。
星野ということは、茂木さんの聖地は、やはり日暮里?
茂木そうなんでしょうね。けれど、サーフィンの聖地のひとつ九十九里も捨てがたい(笑)。
星野でしたら、サーフィンとのコラボアイテムをぜひ商品化させて、九十九里も茂木さんの聖地となるよう、がんばってくださいよ。
そのときには、僕もミシンで縫製を手伝います(笑)。
茂木ミシン、使えるんですか?
星野すみません、使ったこと、ありません。ミシンのチラシなら作ったことがありますけど(笑)。ですから、そのときは、ミシンは冗談ですけど、
デザインの方でぜひ協力させてください。
茂木また星野さんと後藤さんとコラボできる日を楽しみにしています。


茂木 宏之Hiroyuki Mogi
株式会社 茂木商工 
1980年生まれ 東京都葛飾区出身
大学時代にバイトをしていた会社に就職し、サーフィンに情熱を傾ける。その後、幼少の頃から憧れのあった家業「茂木商工」を手伝うことを決意。
4代目となるべく、「精進する毎日」(茂木さん談)。商工業関係の製品を請け負いながら、社長である叔父、父と共に、オリジナルブランド
「BLUE SWALLOW」のバッグのデザイン、製作も手掛けている。
株式会社 茂木商工
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