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OLDKING 太田 祐輝 Yuki Ota
星野太田さんがアメリカ好きということで、まずはそこから……。
太田いや、好きですけど、アメリカだけが好きなわけではなくて……。まさか、それで今日、その衣装なんですか?
星野そう。急遽古着屋で仕入れて来たんですよ。どうですか?(笑)
太田僕は、好きですし似合っているというか、これをおしゃれに着こなす星野さんがすごいな、と(笑)。でも、正直驚きましたよ。
星野さんは、モードな感じの服を好むと思っていたので、こんな服も着るんだーって。新鮮に思って見てました。
星野服に関しては、ジャンルは幅広いかな。ファッションは流行もあるし、その中で興味も嗜好も変わりながら今のスタイルになってきたと思う。
浜マイクを意識してる時期もあって、結構派手な服も着るよ。今日はテリーマンぽいイメージ(笑)。
太田星野さんの家は、クローゼットの中が服で溢れていそう。
星野否定はしないけど、太田さんの“収集癖”には敵わないよ。
太田僕のは、仕事が絡んでますから。
星野ユーズド家具や雑貨に興味を持ったきっかけは、何?
太田おじいちゃんからの影響が大きいですね。古い家具や雑貨、道具がいっぱいあって、子供心に興味が沸きました。僕にとっておじいちゃんの家は
宝箱のような場所でしたね。それから、物を大切に使う心と、修理しながら長く使う技術を教えてくれたのもおじいちゃんです。
今、いろんなものをリペアしたりカスタマイズしているのも、おじいちゃんの影響が大きいです。
星野子どもの頃にルーツがあったんだ。本格的にこの道に入ったのは?
太田本格的にアンティークの雑貨を集めだしたのは18〜19歳の頃だったと思います。自分で稼いだお金で買って、売る。
まだネット販売がメジャーではなかったので、フリーマーケットなどが主でした。この頃はまだ、今思えばですけど、趣味の延長のような感じでした。
星野商売にしようと独立したのはいつ?
太田アンティークの卸を始めたのは27〜28歳の頃で、店を持ったのは30歳の時です。それを機に「OLDKING」という屋号をつけました。
独立して今年で11年目です。
星野テクイジと一緒だ!でも太田さんは幼い頃に興味を惹かれたものをそのまま持ち続けて、仕事にしたでしょ?
僕は結構大人になるまで、道が見つからなくて、デザイナーになる前は別の仕事をしてたから、年期が違うね。
太田そうなんですか?でも、僕もここまで試行錯誤でしたし、興味があることを続けていたら、いろいろな可能性が増えて道が開けた
という感じがあります。アイアンやアンティーク雑貨のカスタマイズなんかも、ニーズがあると手応えを感じたのは最近のことですから。
星野古い雑貨の収集から、制作を手がけるようになったのはいつ頃?
太田元は自分のバイクのカスタマイズからなんですが、バイク屋さんの手伝いで25歳の時に溶接工場で働かせてもらったのが、きっかけでしょうか。
賃金はいくら安くてもいいから働かせてほしいとお願いして(笑)。アイアンパーツの溶接技術などを本格的に学ばせていただきました。
それが今、生きています。
星野ところで、物販の場合って、売れるものをチョイスするというイメージがあるんだけど、太田さんの場合はどうなの?
商売とプライベートの物欲に線引きはある?たとえば、自分の嗜好からは外れても売れそうだったら仕入れるのか、
それとも自分が好きだから仕入れるのか。
太田基本的に、商売とプライベートで、買うものが大きくブレることはないですね。見極めるラインはいつも、自分が好きかどうか。
下心を出して、流行のものだからと自分があまり好きじゃないものを買うと、結局売れ残ってしまうので。苦い経験は何度か(笑)。
でも、プライベートだと多少、財布のヒモを締めようという気持ちにはなりますね。
そうは言いつつ、アンティークは1点ものが多いですし、出会ったときに買わないと次はないので、
やっぱり欲しいと思うものは買ってしまいます(笑)。
星野でも、欲しいものを欲しいままに、という訳ではないでしょう?
太田そうですね。いいなと思ったものでも、売れないと感じたら買えないですし、すぐ売れそうかどうかの嗅覚は持っているつもりなので。
星野自分が好きでも売れる物と売れない物、違いは何?
太田価値に理由があること、ストーリーがあることです。たとえば、同じ時代でも日本と海外のものでは文化・技術の水準が違うので、
当然、出来映えも違います。そうやって違う国の同じ時代のものを並べたり、それが生まれる経緯や素材、職人の技術やこだわりに
ストーリーがあったり、さまざまな背景を知ると面白いですし、興味が沸きます。“古いもの”とひとくくりにできない理由があるから、価値がある。
そこが買う・買わないの見極めのポイントでもあります。まあ、それを知ってしまうと、大抵は気に入ってしまうんですけど(笑)。
お客さんが物を買うときの理由も「どこに価値があるか」だと思うんです。
その価値を、僕が好きになってきちんと伝えることができる物は、お客さんも分かってくれる。だから売れるんだと思います。
星野それが「価値観」てことなんだろうね。一見、いろんな趣味・嗜好のものが集まっているように見える
太田さんのコレクションだけど、 太田さんが見出す価値がブレていないから、売れるし、そのセンスに共感して
オリジナルアンティーク雑貨やアイアン制作のオファーがあるんだろうね。
星野今はアンティークの販売よりも、テクイジがお願いしたようなサッシとかアイアンものの制作とか、
アンティークのリペアやカスタマイズの仕事がメインなの?
太田増えてきましたし、アンティークの買い付けも、その仕事につながるような物をチョイスするようにはなってきましたね。
星野作る方が楽しくなってきた?
太田それもありますけど、元々、おじいちゃんの影響で作ったりカスタマイズすることは好きでした。ですから、これまでも、
パーツ取りとして買って来る商品もあって、自分好みというか、いいとこ取りをしてひとつの商品にするということもやっていたんです。
ガラクタだと言う人がいても、僕にはそう見えないものはたくさんありますし、きちんとリペアしたりカスタマイズすれば、
きちんと価値のあるものになるんです。それに、アンティークは元々1点ものが多いので、年々、数が減って来ているというのもあります。
本当に気に入った物の絶対数が少ないので、数少ない気に入った物をどう残すかというところで、それならば作ってしまえ、と。
作れるものは買わない、作れないものを買う、というように、買い方も変わってきたかもしれません。
星野1から全部作ることもあるの?
太田テクイジさんのように、アイアンだけの制作物でしたら。
基本はアイアン制作で、他のパーツはアンティークから部品取りしたり、新しいものを組み合わせたりして、
アンティークを参考にして制作していくといったイメージですね。古くて良いもの、カッコいいデザインのものはずっと愛され続けると思いますし、
そういった需要が結構あることに、最近驚いています。
星野テクイジは玄関のサッシをお願いしたわけだけど、他にはどんなオファーがあるの?
太田クライアントさんなどから、アンティークなインテリアにしたいというオファーは結構あります。そして数もかなり多い。
例えば、照明などを統一したいとなったら1つや2つではないわけで、同じテイストに揃えるのはかなり大変。けれど、ここが悩みどころで……。
実は、照明などに使われている昔ながらの特殊な技術は、古いものには敵わないと思っているんです。1から作れるものではないなと。
なので、照明は常に在庫として200以上は持っていますね。買い付けも積極的にしています。
ただ、やはりないものはないので、素材が揃ってかつ作れるものは、作ることもあります。
星野ところで太田さんは自分は職人だと思う?
太田作家は、自分のイメージした作品を作り続ける人たちですから、僕は確実に職人ですね。
いろいろな方と関わって勉強させていただいて、古い物からもいろいろなことを学んだことが、作ることに生かされています。
“創造”する仕事ではなく、“制作”する仕事。だから職人なんです。
星野デザインの世界とも少し似ているかも。僕もアーティストではない、というのは一緒だし、お客さんからお題をいただいてデザインで
解決していくというところまでは一緒かもしれない。でも、完全なる職人ではないと思っていて、どれだけ思考し、どれだけ自分たちのデザインで
表現できるかが勝負。そこは違うかも。でも、自分の仕事の魅力を分かってくれるお客さんからオファーが来るんだから、それは喜ばしいことだよね。
太田そうですね。ありがたいです。だから、物を買うときは、必ず実物を見て、触ることのこだわりは変えられないし、ずっと持ち続けています。
それが新しい発見や出会いにつながり、自分の糧となると思いますから。実際に足を運んで選ぶのが好きで、楽しいというのもありますが、
それだけではない世界が広がっていると思うんですよね。今、ネットオークションなどお金を使えばいくらでも商品は買えますし、
欲しいものだって見つかりやすいかもしれません。けれど、それだけな気がして。
星野分かる。僕も調べものや資料はまずは絶対本屋に行って探すね。今、ネットですぐに調べられるけど、
そこには検索したワードのものしか出てこない。けれど、自分の足で探しにいくと、探していた以上のものや、思いもよらなかった出会いがある。
足を使う価値っていうのは、計り知れないよね。
太田同感です。自分の世界観や価値観を広げてくれるのは、出会いだと思います。
それは人でも、物でも何でもいいんですけど、自分で動いて出会うこと。これを僕はやめたくないと思います。
星野まだまだ太田さんの収集癖は収まりそうにないね。
太田何か、僕としては微妙ですけど、いい感じで締まりましたね(笑)。
星野落としどころがあった(笑)。今日は、ありがとう。楽しかったよ。
太田 祐輝Yuki Ota
OLDKING代表/アイアンパーツ制作
1974年生まれ 浜松市出身
USED家具を独自の視点でセレクトしたユーズドショップを展開しながら、アイアンパーツを中心としたオリジナルプロダクツなども制作。
店舗リフォームをはじめ、クライアントなどからの依頼で、インテリア家電などの制作も請け負う。