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The Partner Of a Session

水崎 淳平

Junpei Mizusaki

有限会社 神風動画
代表取締役

1973年 浜松市育ち、京都造形芸術大学 情報デザイン学科卒。広告デザイン会社勤務等を経て独立、1998年 京都で「神風動画」の活動をスタート。1999年 初めて作ったアニメーション作品が、Wavy Awardでグランプリ獲得。その後上京しアニメスタジオ在籍を経て、2003年「神風動画」を法人化。アニメーション業界で常に新風を巻き起こす存在として、ゲーム、音楽PV、CM、雑誌・アニメのコンテンツオープニングなどの映像を手掛けるほか、オリジナル作品も創り出している。主な作品に、DS「ドラゴンクエストIX星空の守り人」OP・イベントムービー、TVアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」第一部・二部・三部OP、日清カップヌードル「FREEDOM」OP・ED、EXILE「BOW & ARROWS」MVなどがある。オリジナル作品では、文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門において、第13回は「審査委員会推薦作品」受賞、第14回は「審査委員会推薦作品」受賞。

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人気者であること=ステータス

変化球を投げるワケ、あまのじゃくな性格。

星野 水崎君と僕の出会いは小学生のときだったわけだけれど、大人になって、まさかこうやって仕事の話をすることになるとは思わなかったですよね。小5までの本当に短い時間だったけれど、こうして自然体で向き合っていられる今を考えると、あの時間がいかに僕らにとって大切だったかが分かります。
水崎 僕は父が転勤族だったから、幼少の頃はいろんな土地を転々としていたけれど、浜松には幼馴染もいるし、思い出の多い町。そのような場所で、こうして星野君と対談するのは、すごく意味がある気がします。
星野 光栄です。水崎君は人気者だったし、余計に思い出深い場所なのかもしれませんね。
水崎 人気者になりたいと思っていましたから(笑)。僕の中で、人気者であることは一種のステータスでしたね。「目立ってやる」といつも考えていて、「こいつ違うな」と言われたかったから、変化球を投げることばかり考えていたあまのじゃくな性格。6年生のときに引っ越した先でも、転入生というだけで目立つのに僕はそれだけじゃ足りなくて、人気者の座を狙った訳です。「初日で(みんなの心を)掴まないと負けだ!」と、いきなり変化球を投げて(笑)。もちろん、掴みはOK で、すぐに輪の中にとけ込めました。中3で再度転校した先でも、同じように臨んだのですが、そこでは失敗、というかとてもタイミングが悪くて。夏の終わりだったので、みんなの気持ちは受験一色。新しい人間のことなんて構っているヒマなかったのでしょうね。人の輪にすぐ溶け込める、コミュニケーション能力が高いと自覚していたものの、才能だけではどうにもならないこともあるのだと、どうしようもない挫折を味わったことを覚えています。だからといって人の輪に積極的に入って行くことをやめたりはしませんでしたね。資質もあったかもしれませんが、転校が多かった環境は僕にとって少なからず、コミュニケーション能力を高める要素になったと思います。今の自分があるのも、そのおかげかもしれません。

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自分の長所をお金に換える

稼ぐなら長所をいかして、楽しいほうがいい。

星野大学時代は、コミュニケーション能力を磨くバイトをしたとか?(笑)
水崎接客業は楽しかったですよ(笑)。自分の長所で稼ぐ、お金に換える、その術をいつも考えていましたから、磨くというより、その術を試してみたかったのかもしれません。それがいかに楽しいかを知ることができたのは収穫でした。
星野すべては今の仕事につながっているんですね。プレゼンや講演でも緊張したことがないと聞きましたが。
水崎そこまでは緊張しませんね。コミュニケーション能力を磨いてきたおかげ、というのもあると思いますが、自分の意見を話すこと、何より人と接していることが楽しい。そういう場でしゃべっている自分は、嫌いじゃないです。

「ないものを作る」という“欲”は、“本能”。

星野いつ頃からアニメーションの世界に入ろうと思ったのですか。
水崎ハッキリと意識したのは、おそらく高校生の頃。ですが、中学3年の進路希望調査には「アナハイム・エレクトロニクス社※に入りたい」と書いていましたね(笑)。幼少の頃からガンプラが好きで、今も趣味のひとつになっていますが、もともと『作る・描く・組み立てる』ことが好きでした。プラモデルになっていないものは段ボールなどで自作していたくらい。そのときから「ないものを作りたい」という欲求が強くあって、この道を選んだ理由にもなっています。
星野 欲求を満たすものが仕事になる。僕がデザイナーを目指した思いと重なります。胸にストンと落ちる言葉。
水崎 自分でことを起こそうとする人は、みんな同じような思いがあると思います。この欲求は、本能だと思っています。『作る・描く・組み立てる』とプロセスは、アニメーションもプラモデルも同じ。本能の趣くまま動いた先に『神風動画』があった、という感じでしょうか。ただ、今は欲求のはけ口が、完成した瞬間ではなく、創り出したものが世に出て動き出した瞬間に変わりましたね。 ※アナハイム・エレクトロニクス社:アニメ「機動戦士Zガンダム」から登場する架空の企業。

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「妥協は死」
設立当初から少し意味が変わった社訓

妥協の欠片は目に見えないけれど、一生残る。

星野『神風動画』さんの社訓は、とても強い言葉で、ハッとさせられました。
水崎今も言葉は間違っていないと思いますが、意味するところは少し変わったかもしれません。妥協したものは心の中に欠片として残っていくような気がするんですよ。それは人には見えないし、自分だけが気になるものだったりするのだけれど、自分が妥協した時点で作品は死んでしまう。その欠片は、一生残り、ずっと背負っていくものになると。
星野だから「妥協は死」。欠片という言葉はとても重い気がします。
水崎たかが欠片と思うなかれ、です。ただ、妥協はしないけれど、妥協“点”が必要なときはあります。そこでいいかどうかのラインを見極めることは絶対に必要ですし、このラインは高いところになくてはいけないと思いますが。「妥協は死」だけれど、妥協“点”は必ずしも「死」とイコールではないと感じています。
星野なるほど。クライアントあっての僕たちだと分かっていますが、“点”のラインを探る攻防が、時に妥協へと流れてしまう場合もありますよね。
水崎確かに、クライアントは僕らのために対価を払ってくれる大切なお客様ではあるけれど、僕たちはプロフェッショナルとしてクライアントをサポートするビジネスパートナーでもあるわけです。この関係は絶対に対等であるべき。ここが同じ考え方でなければ良い仕事はできないと感じていますし、もっと言えば、『神風動画』の作風でなければダメだと考えてくださる相手でなければ、妥協点を飛び越えて、妥協の方向に進んでしまうでしょうね。
星野そこで悩んでいるクリエイターは多いと思います。
水崎ひとつの手段として、僕は絶対に2案出しません。比較させないことです。「これが良い」となる方向に持って行けますから。

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正しさは強さ

すべてはここから。突き通せばたじろがない自分でいられる。

水崎僕も妥協や妥協点について悩んだ時期はありますが、妥協しない、妥協点のラインを高く保つために、努力はしてきましたよ。「これしかない」というものを必ず出す能力を身につけるのは大前提。クライアントに対して常にプロフェッショナルであることは絶対ですが、自分たちに対して厳しく客観的に見ることを忘れず、正しいことを選択する。正しさは強さで、突き通すと強気の一歩が出るんです。押し負けない、たじろがない自分でいられる。ただし、正しいことの選択は、普段からの心掛けがとても重要です。赤信号は渡らないとか、並んで順番を守るとか、小さなことですけれど、

やり続けていれば「ちゃんとやってきたのだから」と、自分の行く道や言葉に対しての自信にもなります。
星野今の話を聞いて、ヤマハ発動機のラグビー選手・三村勇飛丸選手の言葉を思い出しました。彼も、普段正しい選択ができなければ、グラウンドで正しい選択はできないと言っていました。彼は若いけれどチームを引っ張るキャプテンで、すごく良い目をしています。応援しているスポーツ選手のひとりです。
水崎その選手は、きっとビッグになりますよ(笑)。夢を叶える人になる。

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水から上がったら面白いものがある、新世界が待っている。

星野仕事をしていく上で、いつも考えていることは何ですか。
水崎それについては、これまでいろんな言葉を考えてみたのですが、一番しっくりきているのは、「肺魚でありたい」という感覚です。
星野肺魚って、肺を持っている魚ですよね?
水崎そう、その肺魚。僕にはその肺魚が、「水から出られるらしいぜ」「陸にはもっと面白いことがあるらしいぜ」と言っているように思えるんです。水の先にある新世界を求めていて、陸に上がろうとしているその直前の姿だと。ダーウィンの進化論では、魚が水から上がって進化して行くでしょう?その考え方がすごく好き。そして水の中にいれば良いのに陸に上がった魚たちはすごいと思う。陸がどんな場所かも分からないのに。僕もね、今は肺魚だけれど、いずれは陸に上がりたいす。陸にあるもっと楽しいことを求めて。そして上がったからには、陸で生き抜いて、業界のセオリーを破って良い方向性に導く、目標とされる存在にならなくてはいけないと思っています。絶対に水には戻ってはいけないし、その覚悟がなければ水から上がってはいけない。肺魚は両生類ではないから実際には陸に上がることはないけれど、肺魚としての僕は、「水の先にあるもの」をこの目で見たい、陸に上がる進化を遂げたいと思っています。
星野水の先で、陸に上がってやってみたいことは?
水崎一番好きな小説を映像にしてみたいですね。大学の頃から考えていた、僕の最終目標です。そのために今は、経験を積む時期だと思っています。今は自分が創りたいものを創ることには興味がありません。それよりも、みんなが笑顔になるとか、与えられる作品は何かとか、僕らの作品の向こうにいる誰かを思って創ることに興味がありますし、面白いと思っています。まだ夢の途中、肺魚の姿ですが、早く陸に上がって「水の先にあるもの」を手に入れたいですね。
星野水の先・・・、刺激的ですね。テクイジもそろそろ陸を目指すべき時期かな。

水の先にあるもの

正しいこととセオリーは違う。セオリー通りは好きじゃない。

水崎正しいことは選択していきますが、セオリーは好きでなないですね。正しいこととセオリーの何が違うかは、自分で考えなければ答えは出ないと思いますよ。人に教えてもらうものではない。そういうところもあまのじゃくかもしれません。だから、僕は業界のセオリーを破る会社にしたいと思っていて、徹夜はしない、19時以降は電話に出ないと公言しています。クリエティブな仕事でもそのようにできるんだというところに挑戦して、継続していきたいです。

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Private Talk

トレーニングと紅茶とコーヒーと

トレーニングの時間が大切な発想の時間

星野アイディアを考えたり、ひらめいたりするのは、どんな場所が多い?
水崎トレーニングをしているときかな。最近、朝6時半に起きて、ジムに行ってから出勤するライフサイクルに変えたんだよ。今までは徹夜が当たり前で、社員たちから「靴屋の小人」ってあだ名を付けられていたのにね(笑)。
星野靴屋の小人?どういう意味?
水崎朝来ると(作品が)出来上がっているからだって。
星野ああ、そういうこと。例えが面白い(笑)。
水崎けれど、業界のセオリーを変えたいと言っている会社のトップが、残業をしていてはダメだなと思って、自分が変わろうと思った。まずは早起きの習慣をつけて、心のテンションを保つために体を鍛えようと。
星野それ、分かるな。俺も体系キープには気を使っているよ。体が締まっていると気持ちも違うよね。
水崎6時半に起きてジムに行くようになったら、この時間がこの上もなく大切だって気がついた。PCの前や机上であーだ、こーだと考えているより、ずっと考えがまとまるし、アイディアもひらめく。今はすごく大切な時間です。あと、今日22年ぶりに弓を引いて、また弓道を始めるのもいいなと思った。
星野そんなに久しぶりで、当たるもんなの?
水崎高校のときに2段をとっていたから、実力的には問題ない、とは思いつつ不安だった。でも、当たったよ。それは美しく(笑)。「弓は心で引く」って高校の時に諭された言葉を思い出したよ。心ができていれば、時が経っても当たると実感できた。そして、心ができている状態になれたんだなと思えた。

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持続させるための紅茶、切り替えるときのコーヒー

星野ところで、水崎君はどんなときにコーヒーを飲む?
水崎実は、コーヒーを飲み始めたのは最近なんだよね。今まではハーブティーを好んで飲んでいて、出掛けた先々で見つけては買って来て飲むくらい好き。効能とかにも凝っちゃって、こういう気分のときにはこのハーブティーとか。今のお気に入りはレモングラス。でも最近コーヒーを飲み始めたら、うちのスタッフが凝っちゃって「今日はハワイコナです」とか「今日は酸味のある豆にしてみました」とか、いろんな豆を買って来て、淹れてくれる。タイミングとしては、社内でのミーティングが終わったら、コーヒーを飲んで、絵を描くって感じかな。コーヒーブレイクって言葉があるけど、ブレイクには「分

解・再構築」って意味があるよね?まさにそういうときに飲む。
星野俺もそうだな。ブレイクしたいときには必ずコーヒー。あとは、朝一番、PCに向かう前と、一息つきたいときにも飲むかな。
水崎切り替えるときに飲むのがコーヒー、今のテンションを持続させたいときに飲むのがハーブティー。使い分けて飲んでるけど、こうやってリラックスしながら飲むコーヒーもいいね。「Coffee and Session」っていう言葉、星野君らしい。
星野じゃあ、もう1杯どう?
水崎いただくよ。

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My Favorito

「水崎さんのお気に入り」

サザビー(ガンダムプラモデル)



大好きなガンプラの中で、最もフォルムが美しい「サザビー」がお気に入り。学生手帳に描いていたくらい好きで、これは僕の宝物のひとつ。厳密に言うと、出来上がった作品より、作っている時間と過程がフェイバリットだと感じています。仕事でメカ・ロボット・キャラクターをいっぱい作っているのに、何で休みのときもプラモデルを作っているのか?しかも、忙しいときほど難しいプラモデルを作りたくなるなんておかしいでしょう?と、自嘲しながらもやめられません。たぶん、触れられないものを創っている仕事にどこかストレスを感じていて、指で触れることのできるプラモデル作りをすることでバランスを保っていのでしょうね。プラモデルと仕事は、同じ“つくる”作業でも違う脳を使っている感覚がありますから。僕にとってプラモデル作りは、単なる趣味の域を超えて、仕事を円滑にするためのかけがえのない存在です。

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This Shop

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「今回撮影にご協力いただいたお店」

焙煎屋

厳選した高品質の生豆を、お好みのロースト(焙煎)で販売するコーヒー豆専門店。焙煎したての新鮮なコーヒー豆が奏でるふくよかな香りと味わいは、コーヒー本来の美味しさをダイレクトに伝えてくれます。フィンランドのログハウスを模して建てられたお店では、コーヒーをいただく喫茶店も併設。焙煎したてのコーヒーが、手作りクッキーやケーキとともに味わえます。コーヒー豆は、オンラインショップでも買うことができます。

Data

静岡県浜松市中区向宿1丁目8-2
T 053.462.9993 F 053.466.1661 /火曜定休
平日 9:00〜20:00、土日祝 10:00〜20:00
www.baisenya.co.jp

  • Design tekuiji DESIGN
  • Photograph Indigohearts
  • Writer writer Moki