“雰囲気”を纏う=ファッション

自然と身に付いた物腰や着こなしの“雰囲気”

星野『N4』のファンで、この企画が立ち上がった当初から、ずっと栗田さんと対談をしたかったんですよ。
栗田ありがとうございます。三森(『N4 TOKYO』の店長)に星野さんのことを聞き、実際にお会いしたときこの企画の趣旨を伺って、対談の日を楽しみにしていました。
星野栗田さんと対談するなら紅葉が見頃の京都だと決めていたので、念願叶ってうれしいです。こういう歴史ある場所が身近にあるって、素敵ですよね。今日は全身『N4』を着てきたのですが、このスタイリッシュさと京都の雰囲気がすごく合うなと驚いています。
栗田『N4』のコンセプトは「PECULIAR CULTURE」。織物や染めなど、京都らしいテイストなど、日本特有の美的センスを取り入れたデザインなので、そう感じてもらえて、うれしいです。
星野栗田さんの自身も、スタイリッシュで独特の雰囲気を持っていながら、声のトーンや話し方、物腰の柔らかさなど、京都に通じる部分がある気がします。
栗田そうですか?物腰や話し方などは、10代の頃からこの業界にいたので自然に身に付いた接客業の基本があるからだと思います。
星野それでも、栗田さんの持つ雰囲気はそういったセオリーだけじゃ形成されないものですよね。栗田さんの纏う雰囲気がそのまま『N4』を体現しているというイメージ。
栗田そういったイメージは大切にしています。ファッションは、服を纏うのではなく、“雰囲気”を纏うことだと思うので。
星野おお! その言葉、ビビッと来ました。僕は常々、服は自分を表現する重要なアイテムだと思っているんです。それを言葉にすると“雰囲気”を纏うってことなんですよね。これから使わせていただきます(笑)。

必要なのはタイミングを逃さない瞬発力

好きなことしか仕事にできない。好きだから情熱を傾けられる。


星野
 栗田さんはいつからこの業界に?
栗田 ファッションに興味を持ち始めたのは高校生の頃。バンドをやっていて、ロック、パンクから始まって、ロカビリーに移行して、ファッションの傾向も変わって行きました。そうしてはまったのが古着。大阪のアメリカ村などにはよく行きました。ヴィンテージデニムなどを扱うアメカジの古着屋さんに勤めだして、アメリカの買い付けに同行させてもらっていくうちに、独立心が沸いてきて、2年半後くらいには独立していました。
星野 早い! ということは、ハタチくらいですでに独立していたんですか?!
栗田 22歳のときです。今42歳なので、もう20年経っていますね。今聞かれて自分でも少しビックリしました(笑)。
星野 栗田さんと僕は同じ歳なんですよね。僕はまだ独立して12年ですから、大先輩。20年続けるというだけでもすごいなと思うのに、何店舗も展開するまでになっていること

に、尊敬の念を抱きます。成功の秘訣を教えて下さい。
栗田 秘訣は、ないですね(笑)。一緒に店を辞めた相方と、フリーマーケットで古着を売って資金を稼いでからのスタートですし、自分が好きなこと、興味があることをチョイスしていったから今がある、という感じです。好きなことしか仕事にできないんでしょうね。情熱を傾けられない。
星野 その感覚、僕も同じです。何か、このままでいいんだと言われた気がします。十分参考になりました(笑)。

  考えすぎて動けないより、動いた失敗を生かした方がいい。

星野 最初はアメカジショップから始めたんですか?
栗田 当時、リーバイス501XXとか、ヴィンテージデニムが流行っていたので、そういうアイテムを中心にアメリカで古着を買い付けて販売していました。
星野 それが今のモードが入った感じに方向転換したのはいつ頃ですか?
栗田 2〜3年後くらいです。オープン当初もヴィンテージデニムと新品の服をミックスして買い付けてきていました。けれど、100%アメリカの買い付けで商品構成をしていて、国内のブランドや展示会で買い付けるなどはしていなかったんです。プライベートブラン

ドの『N4』を立ち上げるとか、自分でものづくりをするというイメージは、当初全く持っていませんでした。
星野方向転換のきっかけは?
栗田月に2〜3回、アメリカに買い付けに行っていたのですが、ヴィンテージもの自体の絶対数が少なくなったり、値段が高騰しすぎたり。当時爆発的に人気が出てしまったという経緯もあるのですが、そういった事情で100%の買い付けで商品構成するのが難しくなったというのが理由のひとつにあります。あとは時代の流れでしょうか。少しずつ国内の業者さんとの取引が増えていったのが、転換期だったと思います。
星野方向転換というのは、大きな決断だと思いますし、難しい選択を迫られることも多い。勇気がいったと思いますが。 
栗田確かに、それはありました。けれど、考えすぎると動けなくなってしまう。僕はそれが嫌だなと。動かずに後悔するより、動いて失敗して、反省して、それを生かす方が建設的だし、確実に前に進める。大切なのは、動かなくてはいけないとき、動くと決断すること。瞬発力だと思っています。
星野その思考が今につながっているわけですね。
栗田それが本当に良いかどうかは、人それぞれ、そのときどきだと思いますが、僕はこれで後悔したことはないです。後悔という言葉は、動かなかったときにあるものかなと、何となく、そう思います。

価値観と感性の投合がファンを生む

価値を知ってもらうことが差別化の第一歩。

星野京都の本店には初めて来ましたけど、3階それぞれが個別のセレクトショップになっているという、ファッションのデパートというイメージを受けました。
栗田そうですね。ひとつのビルにいくつかのセレクトショップが入っているというイメージです。ビル自体は『ブロック』という名前で、1階に『MINDTRIVE』『EMⅠ』『ATTACHMENT KYOTO』、2階に『KURO KYOTO』、3階に『EMⅡ』というそれぞれ、違うブランドを扱うセレクトショップが入っています。
星野人々の趣味嗜好が細分化していく中、この形はすごく興味深いなと思いました。ファストファッションが台頭してきて、こういったブランドを扱うショップや路面店が苦戦していると聞きますが、栗田さんの展開するショップでは、そういう印象は受けませんね。
栗田ウチのような店が、押されているという評価は合っているようでいて、少し違っていて、差別化されてきたということだと思います。アイテムをセレクトするときに、価値を見つけることも重要な要素で、その価値を知っていただいてファンになっていただく。これから生き残っていく店は、いかにファンを作るかというところにあると思います。

ターゲットとなる年代やさまざまな趣味嗜好に合わせてフロアや扱うブランドを分けて展開をしていますが、万人には受け入れられるとは思っていません。ですから、特別広くアプローチするということはせず、ウチのセレクトが好きだと感じてくださるお客様にターゲットを絞っています。でもそれで良いと思っています。若いうちは興味がなかったり好みではなかったりしても、何かのきっかけや、年齢を重ねていくうちに、興味を持ってくれたらうれしいなと。価値観と感性って育まれていくものだと思うので、それが分かって共感できると感じてもらえたときが、差別化されたという証。そうやってファンは増えていくものだと思っています。

セレクトの定義は「オンリーワン」であること。

星野   服をセレクトする際に、指針としているものはあるんですか?
栗田 セレクトの一番のポイントは、自分たちが着たいもの。例えば、僕的にはアメカジの古着やリメイクものがあってもOKなんです。重要なのは “『GADGET』っぽい”セレクトであること。趣味嗜好が多様化しているので、万人に合わせるのは難しい。けれど、店に来てくださるお客様は、この店の雰囲気とかセレクトされている服の雰囲気とか、スタッフの雰囲気とか、そういった“『GADGET』っぽい”雰囲気が好きだと言ってくださる。だから、言葉で「これをセレクトするべき」という定義は必要ないのかなと。ショップスタッフも“『GADGET』っぽい”雰囲気が好きで働いていると思いますし、そういうスタッフが好きなものをセレクトしたアイテムであれば、お客様にも共感していただけると思うので。
星野 そう言えば、スタッフの皆さん、栗田さんと雰囲気が似ていますよね(笑)。だから好きなものも似ているのかなと感じます。
栗田 そうかもしれません。好きなものが共感できるというのは、一緒にやっていく上で大切だと思います。
星野 僕もその感覚は大切にしています。事務所のデザイナーはもちろんですが、一緒にチームを組んで仕事をする仲間を選ぶとき、これがカッコイイと感じる感性が同じであることは、クオリティの高い仕事をするためには不可欠な要素。
栗田 そこがはまっていると、ブレないですよね。いろんな方に知ってもらいたいと思いますが、やはりその人のためにある「オンリーワン」であるセレクトをしたいと常々思っています。
星野 クライアントさんがこだわっている部分を最大限に表現して、そこに共感してくれる人に響くこと。僕のデザインもそうありたいと思っています。

今描いている未来が
マストではない

アイディアは考えない。そのとき
浮かんだイメージを信じる。

星野いろいろなコンセプトを考えるのは、どんなときですか?
栗田どんなときなんでしょう(笑)?
星野僕は意外と車の中でアイディアが浮かぶことが多いんです。
栗田ああ、そういう意味で言ったら、僕も車の中とかひとりになれる時間に思考をまとめることもありますね。あとは、仕事で海外に行った際、いろいろなショップを見て回って刺激を受けることが多いです。
星野東京などではなく、海外ですか。行き先は?
栗田パリが圧倒的に多いですね。扱っているインポートブランドがあるということと、ファッションの最前線はやはりパリにあると思うので。参考になります。
星野セレクトショップのデパートのようなお店を作ろうという構想は、いつからありました? 
栗田いつから考えていたのか、敢えて言うなら直感ですね。物件を見て回って、このビルにしようと感じたものがあったのは覚えています。このビルならどんなことができるだろうかと、想像がふくらんでいった感じです。面白い作りでしたし、前に入っていたのが美容室の薬剤などを作っていた会社兼倉庫だったというのも興味が沸きました。事前に構想を練っていたかと言われると、そういった意識はなかったよ

うな気がします。そのとき出会ったものから得たインスピレーションを形にしていくというか、直感を信じて動いたらこの形になったという感じです。何らかのイメージは持っていたとは思いますけど・・・。  
星野わざわざ倉庫のような場所を探していた、という感じじゃないですか?
栗田そうですね。倉庫のような場所がいいなと思っていましたから。
星野やっぱり! 栗田さんのような人は絶対そういうのが好きだと思いました。
栗田星野さんは『N4』の服が好きな方なんで、嗜好はもちろんですけど、思考も同じというか、感性が似ているんでしょうね。

時代の変化で少しずつ変化しなが
ら、未来を描き続ける。

星野直感で動くとおっしゃっていましたが、20年後のビジョンとか、今この場で思い浮かぶ将来のイメージのようなものはありますか?
栗田う〜ん。20年後、ですか……。独立したときは、何となく50代くらいで引退できたらいいなと思っていたんですけど、あと10年しかないんですよね(笑)。
星野いや、50代で引退だなんて、もったいないですし、栗田さんの性格的には無理じゃないですか?(笑)
栗田そうなんですよ。この仕事を続けてきて、その時そのときでやりたいことが出てきたこれまでの自分を振り返ると、これからもまだ新しくやりたいことが出てくると思うんです。だから50代での引退は無理かなと今は思ってます(笑)。20年後の自分に向かって構想を練っ

て、そこへ向かっているというイメージはやっぱりないですし、きっとそのときの直感でまた動くんでしょうけど、漠然と、何かしらアパレルの仕事は続けていくだろうなとは思っています。
星野一代で終わらせるつもりはない、と?
栗田そういう意味では、終わってもいいと思っています。自然につながれば続いていくのかなと。でもまあ、そうですね、将来的にはさらに凝縮した形でやっているかもしれませんね。自分がまたお店に立っている、とか。
星野れはそれで楽しみですね。そういう考え方、料理人に多い気がします。総料理長とかオーナーという立場を経験してきた方は、また現場に立ちたいと思うそうなんです。しかも、目の前にいるお客様だけのために自分の料理を振る舞うという、小ぢんまりした形態だったりするんですよね。
栗田ああ、分かります。もう一度、自分の届く範囲で、店をやってみたいと思うこともありますから。自分の好きなものを好きだと言ってくださる顧客様だけのためにセレクトする。そんな形態もいいなと。
星野東京のお店はそれに近いですよね?
栗田そうですね。代官山のフラッグショップを恵比寿に移転して、顧客様の満足度を高めることを重視する方向へとシフトしました。これまで路面店ということで万人受けするセレクトも意識していたのですが、今は顧客様だけにフォーカスしたアイテムをセレクトしています。
星野僕はまんまとその策にはまっていますよ(笑)。三森さんがお勧めしてくれるアイテムがいつもドンピシャで、僕専用のスタイリストという感じ。最近ではウェルカムドリンクでもてなされ、ゆったりした雰囲気の中で買い物できるというのも、特別感があっていいですよね。
栗田元々現地で自分の好きなものを買い付けて、自分のセレクトを気に入ってくださったファンの方が顧客様になってくださった、というのが僕のスタート。原点に返る、というわけではないですが、自分の“城”で好きなことをやってみたいという欲求は少なからずありますね。東京のショップは、そのイメージに近い形でできていると思います。
星野20年後は、気ままに、栗田さんの好きなように、好きな形でやっていると。
栗田そうですね。時代の変化で自分の考えも少しずつ変化していくと思うので、もしかしたら今語っている形ではないかもしれませんが(笑)。でもそうやってそのときそのときで未来を描き続けていくと思います。
星野僕としては、栗田さんが店頭に立つお店に興味がありますから、ぜひ実現させてほしいと思います。
栗田そのときは、ご来店お待ちしております(笑)。

My Favorite

「栗田さんのお気に入り」 ABARTH 595 COMPETIZIONE(アバルト595 コンペティツィオーネ)

車に興味がない方でもフィアットは知っていますよね?アバルトは、フィアット500をベースにチューニングしている車なので、ぱっと見はフィアットに似ていますが、スコーピオンのエンブレムがついていたら、それがアバルトです。以前から好んでイタリア車に乗っていましたが、イタリアらしいスタイリッシュなデザインはもちろん、スポーツカーのカルチャーやクラフトマンシップに惹かれます。アバルトを選んだ理由も、もちろんそこ。『N4』や店で取り扱っているブランドのイメージにイタリア車はピッタリはまります。アバルトのルックスは気に入っていましたが、僕や店のイメージ、そして京都という古今の文化が融合している町に、シルバーのギラギラ感があまり馴染まないなと思い、カスタマイズ。ドアミラー、ドアノブ、エンブレムの縁など、シルバーのパーツをすべてマットブラックにラッピングしました。歴史ある町並みにスタイリッシュなアバルトがより一層馴染んで、イメージ通りになりました。この相棒と京都の町を走るのが、楽しみのひとつになっています。

This Shop

「今回撮影にご協力いただいたお店」

BLOC

京都市市役所、本能寺など時代の違う歴史的建造物や、修学旅行でお馴染みの新京極商店街が近隣にある烏丸地区。新しいものと古いものが融合する路地の一角にある、3階建てマットブラックのファッションビル。栗田さんがイメージした“セレクトショップのデパート”を実現したビルで、自社ブランド『N4』をはじめ、国内外のブランドからアイテムを集めたセレクトショップを、各階ごとに展開。1階から3階まで、それぞれが独立したショップとなっていて、年齢や嗜好の違うターゲットに絞ったブランドやラインナップは、ピンポイントでファンの心をつかんでいる。個性的でありながら古都にも馴染むアイテムたちを纏えば、京都のファッションリーダー的存在感を醸し出してくれる。

Data

京都市中京区福長町103
T 075.213.2252 F 075.213.2262
Open 12:00~20:00
http://www.mindtrive.com http://nfour.jp

  • Design tekuiji DESIGN
  • Photograph Indigohearts
  • Writer writer Moki