Session2-06_01

星野 複合的という考え方は、今こそ僕も持っていますが、独立した10年前には考えつきませんでしたね。依頼された仕事に追われる時期を乗り越えて、仕事の幅が広がったときに思ったんです。すべてのデザインの基礎がグラフィックデザインであると。イメージすれば絵が描ける。そこから無限大に広がって行く可能性を見た、と言えばかっこいいんですが(笑)、でも、やりたいことが見えてきたんですよね。それが、複合的という考え方。
日内地 目に浮かぶもの、頭で考えたものを具現化するのは、デザイナーの仕事ですよね。デザインはできませんが、同じような思考で生きていると思います。
星野 思い描いたものをカタチにしていくという過程は、同じです。「アパートメントストア」がまさにそうでしょう?
日内地 道半ばですが、自分がやりたいこと、一生の仕事になると思えたことがカタチになりつつあります。
星野 一生の仕事になる、と思えるものに出会えるかどうかは、大きいですよね。
日内地 僕はそれを見つけるまでに遠回りをしました。
星野 僕もです。最初からデザイナーだったわけじゃないんですよ。

日内地 そうなんですか?意外です。
星野 野球が大好きで、高校まで野球部。かなりの野球少年でした。大学でも続けられる実力ではないと思っていたので、野球のように夢中になれるものを探し続けました。けれど見つからなかったんですよね。一度はデザインと関係ない会社に就職したのですが、それはそれで向いていたし、やりがいもあったし、楽しかったし。でもふとしたきっかけでデザインという仕事に行き着いたんです。野球少年だったが故に忘れ去られていた自分の能力に気が付いた瞬間でしたね。
日内地 そういう話を聞くと、少しホッとしますね(笑)。遠回りが決して良いとは思いませんけど、一生の仕事に出会えたと思える人は、実はあまり多くないんじゃないかとも思うんです。それなら、遠回りもした甲斐があったなと思える。遠回りしていた時期に経験したことが、確実に自分のスキルになっているし、新しいことにチャレンジする際のモチベーションになっていますから。
星野 僕も、野球をやっているときと同じモチベーション、気持ちでデザインの仕事ができていることに気がついた時「一生の仕事になる」と思いましたね。思った通り今でも、同じ思いで仕事ができています。