リズムを生むため、あえて余白を残す。

沙里 今回、星野さんとフレグランスのセッションをするにあたって、ベースの香りをブレンディングしてきました。お味噌汁で言うと、出汁の部分ですね。仕上げとなる具の部分は、今日、星野さんに選んでもらいます。
星野それは楽しみ。どんな香りをブレンドしたのか知りたいですね。
沙里 詳細は後ほど。まずは先入観を持たずに、香りを「聞いて」みてください。
星野うん、スパイシーで、すごく好きな香りです。これで完成でもいいくらい。
沙里 ホントですか?! これでいいと言わせたい気持ちもあるので、うれしいんですけど……でも主役は星野さんですから。星野さんのチョイスする香りが加わって完成するよう、余白をわざと残してあるんです。
星野余白……僕もデザインするときに意識することだけど、調香するときとは少し意味合いが違うかな。
沙里 デザインの場合の余白は、どういった理由でこだわるんですか?
星野空間を意識する感じ。余白の使い方で高級感が出たり、目立たせたり、あとはリズムを出したり。

沙里 リズムを出す!まさにそれです。香りってリズムがあるんですね。トップで印象的な出会いをして、ミドルで馴染んで、ラストは熟成されていくというイメージ。この余白を星野さんにチョイスしてもらう香りで埋めることによってリズムが深まります。
星野なるほど。埋める、というのはデザインとは違う感覚だけど、そのプロセスがどう香りに影響するのかは興味があります。
沙里 私もです(笑)。星野さんにはこのまま完成でもいいと言ってもらえましたけど、やっぱり星野さんの個性を表現するには至っていないと思うんです。余白は、より星野さんという人を表現する香りへと昇華させる重要な部分だと思っています。自分の想像や感覚で調香するより、ご本人に好きな香りや気になる香りを選んでもらうと、さらにその人に近づけるし、寄り添う香りになるのかなと。
星野 他の人の感覚も取り入れると昇華するってことかな? その感覚、僕も最近デザインをしていて感じていることだから、すごく分かります。事務所を新たに改装して優秀なスタッフが集まって、一緒に仕事を手がけるチームもできてきて、これまでより良いデザインができているなと。自分のアイディアが昇華されていると感じるんです。以前は自分が手を動かしていたから、そういう感覚はなかったんですよね。けれど、今は違う。未来のテクイジデザインのカタチが見えて、ワクワクしています。