香りが人との出会いをつなぎ、世界を広げる。

星野「Coffee and Session」で対談する人たちは、どこかしら皆、こだわりを持っていて、深いなと思う人ばかり。とても刺激になります。人との出会いがエネルギーの素になっているんだなと、セッションするたびに思います。
沙里 私もそう思います。香りをオーダーしてくださる人は、こだわりを持っている方々ばかり。私の知らない世界観や思考を持っていて、話していてとても楽しいし刺激になります。そういう経験をたくさんさせてもらってきて、人は財産だなと強く思っています。そうやって人をつないでくれる香りに、本当に感謝しています。
星野香りが沙里さんの世界を広げてくれたんですね。
沙里 そう思います。香りの師匠から「沙里の香りは言葉を越えるね」と言っていただいたことがあるんです。それを聞いたとき、言葉や文化の壁を越えて「良い香り」という感覚だけあれば、世界中つながることができるなんて、すごく素敵なことだなと思いました。
星野沙里さんは、香りのイベントなどで海外に招待されたり、日本だけでなく海外でも活動していますが、日本と海外では香りの感覚は違うんですか?
沙里 どうでしょう……。日本では、香りを「嗅ぐ」ではなく「聞く」という表現をすると知ったとき、日本人は素晴らしい感性を持っているなと感動しました。ただ鼻で感じるだけでなく、五感で、心で、「聞く」。その言霊にすごく惹かれて、日本人てすごい!と。けれどフランスに行って、調香するためのデスクを「オルガーノ(オルガン)」と言うのだと知ったとき、衝撃を受けました。調香する作業を音として捉えていること、そして日本人が「聞く」と表現する言葉さえもすぐに感覚として受け止められる、その感性に何とも言えない思いが込み上げました。まったく別の国に香りの勉強に来ていると思っていたのに、本当に世界は小さいなと。そういう意味では世界中どこでも、香りの文化が生まれたベースが違っても、香りに対する感覚や感性は同じだと思います。

沙里でも、こんなことを言うのはどうかと思うんですけど、調香師という肩書きにはこだわっていないんです。自分の名前が肩書きだと思っているので。
星野ああ。“sari”って“香り”のことでしたもんね。
沙里けれど、調香師の仕事は、自分を表現するツールのひとつであることは間違いありません。香りが人との縁をつないでくれて、今の自分があります。お仕事として調香のオファーをいただくようになって、より強く感じるようになりました。香りを通じて知らない世界に出会うことも多くあり、それらを追求していくことによってさらに香りと人のつながりが深まっていき、自分の世界も深まっている気がしています。香りの神様に応援されているのかなと思うほど。