ラグビーが好きで撮り続けたから今がある。

ラグビーでつながれるご縁に感謝。

星野初めて谷本さんと出会ったのはラグビー場でしたね。
谷本はい、よく覚えています。
星野若くてちっちゃい女の子があんなデカイレンズのカメラ担いで大変だなと、でも悔しいくらいにカッコイイとも思いました。そのときはまだラグビーワールドカップ2015イングランド大会前で、ラグビーはマイナースポーツってイメージが強かった頃だったから、ファンだけじゃなくて報道の現場に女子は少なかったし、とても印象的でした。
谷本ありがとうございます。私も、初めて星野さんを見たときはかなりのインパクトを受けましたよ。ラグビー場の関係者エリアに普段いるはずのない、カッコよくて雰囲気のある人がいるなーと(笑)。
星野デザイナーという職業だから、見た目でまず自分がどういう仕

事をしているか想像してもらうのは重要。そう感じてもらえたなら光栄です。谷本さんはそういう意味では、とてもギャップがある。ふわっとしたかわいくて女の子らしい雰囲気なのに、ラグビーっていう格闘技並みの激しいスポーツを撮っていて、しかも写真がすごくカッコイイ。興味を惹かれて話をしてみたら、垣間見えてきた芯の強さに男らしささえ感じました。
谷本すごい褒め言葉! 16年間ラグビーを撮り続けてきて、こうしていろんな方とご縁がつながっていく度に、本当にラグビーを好きになって、撮り続けてきてよかったと思います。お仕事の依頼は、ラグビーを通してつながった人とのご縁で広がっています。ラグビーに出会ったから今があるのだと、心から思います。そして、フリーランスになってからもお仕事をくださっている朝日新聞出版社のみなさんの存在がなければ、ラグビーを撮り続けていられなかったので、本当に感謝しています。

スポーツフォトグラファーとしての原点は、大畑大介さん。

星野谷本さんがラグビーを撮り始めたきっかけは?
谷本ありきたりですが……ある選手のファンになったのが、きっかけです。
星野おや、意外とミーハー(笑)。
谷本そうなんですよ。しかも「カッコイイ!」と思ったのは、ラグビーをしているシーンでもなくて(笑)。プロスポーツ選手や芸能人が参加して最強のスポーツマンを決めるという番組があったの、覚えていますか?その番組に、当時、神戸製鋼コベルコスティーラーズに在籍していた大畑大介さんが出場していて、絶対王者だったケイン・コスギさんを破ってナンバーワンになったんです。それを見て一瞬でファンになって、同時に、これだけの身体能力を兼ね備えている人がやっているラグビーというスポーツは、どれだけスゴいんだろうと興味を抱きました。初めて手にした一眼レフを持って、地元の草薙総合運動場へ、クラブチームのラグビーの試合を撮りに行いました。高校1年生の頃です。
星野高一でスポーツフォトグラファーデビュー!
谷本それは大げさですけど、振り返ると、原点はそこだったと思います。当時はただ、大好きな大畑さんがやっているスポーツに興味を惹かれたから、観に行ってみたい、写真に撮ってみたいと思っただけでした。でもまさか、仕事として撮るようになっているとは夢にも思っていませんでした。
星野すごいことですよね。好きになって、撮り続けて、仕事になってもなお、好きで撮り続けている。好きなものを職

業にできる人は、そういませんよ。
谷本 とても幸せだなぁと思います。でも、スポーツフォトグラファーとして仕事が成り立つようになったのは、ここ6年くらいです。最初の10年は、ラグビーが好きだから、自ら試合会場に足を運んで撮りに行っていただけで。
星野 本格的にスポーツフォトグラファーを目指し始めたのは、いつですか。
谷本 いつでしょう(笑)。写真は好きでしたし、漠然とカメラマン

になりたいという気持ちはありました。何よりラグビーが好きだったので、スポーツフォトグラファーというより、ラグビーを撮りたいと思っていました。高校で写真部に所属し、卒業して日本写真芸術専門学校に入って、いろいろなものを撮りました。被写体は風景とか静物とかが多かったですけど、やっぱりラグビーを撮っているときが一番楽しかったですね。だから卒業制作の課題が『9カ国を巡って、自分の決めたテーマで写真を撮る』と聞いたとき、テーマはスポーツしか思いつきませんでした。

 

好きだから撮る。好きじゃなきゃ撮れない。

自分から興味を持たないと、好きになれない。

星野なかなか壮大なスケールの卒業制作。そして、谷本さんらしいテーマのチョイス。きっと素晴らしい体験ができたのでしょうね。
谷本 とっても!このときは、ラグビーを撮ることは全く考えていなくて、その国らしいスポーツを撮ることにしていたんです。そこでまたひとつ、魅力的なスポーツに出会ってしまったんですよ!タイでムエタイに出会ったときの衝撃と言ったら!こんなに人体の筋肉と躍動感に魅入られたスポーツはありません。例に漏れず、ハマったきっかけはカッコイイ選手がいたからなんですけど(笑)。
星野そこも、谷本さんらしい。
谷本こうやってこれまでのことを話していると、私はやっ

 

ぱり好きにならないと撮れないんだなーと、つくづく思います。しかも、自分から興味を持たないと好きになれない。ラグビーも、ムエタイも、きっかけは選手のファンになったことでそのスポーツに興味を持って、写真を撮るようになってからもっと好きになっている。それが仕事にもなって、本当に幸せです。
星野好きじゃないと撮れない。その感覚、とても理解できるし、共感できます。僕もデザインが好きだからこの道に進んだし、そもそも好きじゃなきゃ仕事にしていない。もちろん、オファーしてくださる方たちがいるから、好きなことを仕事にできていて、だからこそ今がある。とても幸せなことだと、僕も思います。

 

感動の瞬間を、その1枚だけでずっと残していける。

星野カメラマンのジャンルはいろいろありますが、スポーツフォトグラファーはカメラマンの中でも羨望のジャンルだと思います。それだけに難しさもあると思いますが、最大の魅力はどこにあると思いますか。
谷本一瞬の美しさや感動の瞬間を捉える面白さ。そしてその1枚だけで、そのときの造形美や躍動感、感動をずっと残していけるところに、スポーツ写真の魅力を感じます。動画の映像美は日進月歩ですごいなと思いますが、写真には動画とは違う美しさがあると、私は思っ

ています。それはスポーツに限らず風景などでも同じで、レンズを通した先にある一瞬の光や、空気感、時間を残すことができるのが写真の魅力だと思うんです。フィルムで撮っていたときはより強く、感じていましたね。
星野 一瞬を捉えるのは、知識や技術もさることながらタイミングというか、その瞬間を感じ取る感性も大事ですよね。それって、経験を積めば誰にでもできるというものじゃない。僕たち広告のデザイナーもそうですが、広告のカメラマンも、それぞれの商品なりの世界観を「創って撮る」という感覚。そこには創造性のほかに感性も必要ですが、そこしかないという一瞬を感じ取って収める感性とは、ちょっと感覚が違うなと。いつ来るか分からないし予測もつかない、ましてや巻き戻すことなんてできない、本当にその一瞬しかない。そこを撮るのだから、本当にすごい。
谷本 そう言っていただけるのは、とてもうれしいです。けれど私は星野さんとは逆の考えです。私は創造性がないので、創り上げて撮るのはハードルが高すぎる(笑)。だから創造しながら撮る写真の方がすごいと思っています。生み出しているのは被写体であって、私は本当にそこにあるものを撮っているだけ。とは言っても、プレーしている人や周りの人たちがいてこそ感動や躍動のシーンが生まれるので、その人たちが見せてくれる一瞬の魅力や心の内を撮れるようにしたいとは、いつも思っています。
星野 谷本さんの中で、ラグビーはスポーツシーンを撮るという感覚と、選手を撮るという感覚、どちらの方が大きいですか。
谷本 ラグビーはどちらでもあって、どちらでもない気がします。きっかけは人物、選手を好きになったからですが、今はラグビーはすべてのプレーがカッコイイと思うし、美しいと思っているので、ラグビーというスポーツを撮ること自体が好きだなと思うんです。もちろん、ファンの選手もいるし、好きなチームもありますが、ラグビーを撮るときは人物やスポーツシーンといった感覚なく、感じたままに撮っている、ニュートラルな気持ちで撮れる唯一の被写体だと感じます。

どこに萌えポイントがあるかが大事。

自分が「いい」と思える写真だから、自信を持って押せる。

星野 谷本さんの写真を見せてもらったとき、特にスポーツの写真は選手やスポーツの魅力が溢れていて、カッコイイし愛を感じました。そこに愛があるかどうか、すごく大事だと思いませんか?
谷本 被写体への愛は、必須です!そうしないといい写真が撮れないと思っているので。自己満足かもしれませんけど、自分が「いいな」「好きだな」と思った写真じゃないとクライアントさんに押せないんです。けれど始めの頃は、オファーがあったシーンの写真と、分かりやすくて使いやすい写真だけを納品していたんです。でもそれじゃあ、私らしさが分かってもらえないし私にオファーをくださる意味がない、生き残っていけないなと思ったんです。なので最近は、納品する写真の中に、自分がいいと思う写真も混ぜて、密かに “押し” ています。
星野 自分が押してるものが採用されるということは、そのクライアントさんとはセンスが合うということ。うれしいですよね。自分がいいと思うものをもっと見せたいと思いますよね。
谷本 センスが合うかどうかって、やっぱり重要ですよね?!私はそのセンスが合うかどうかの部分を “萌え” ポイントと呼んでいます(笑)。その写真の中に自分が “萌え” るポイントがある写真が好きだし、押しの写真になります。クライアントさんだけじゃなく、写真を見た人たちが「この写

真のココが萌える!」って思ってもらえて、そこからそのスポーツの魅力を深めてもらえたらもっとうれしいです。
星野 “萌え” 。ビックリ!僕もデザインするときによく使う言葉!
共通言語が同じ人に初めて出会いました。すごく興奮してます!
谷本 私も “萌え” の感覚が分かってくれて、すごくうれしいです!
星野 王道のカッコよさの先にある、自分だけの “萌え” ポイント。僕はいつもそれを探しています。すなわちそれが自分らしさを加味したデザインってことですかね。この感覚を持っていないと、いいものができないですよね。
谷本 本当にそう思います。私も「こういう写真が撮れたらいいな」といつもイメージしていますし、イメージしているときは “萌え” る写真が撮れるんです。
星野 そういうこだわりが、ブランディングにつながっていくと思うんですよね。だから “萌え” を分かってくれる人が仕事をオファーしてくれるようになる。
谷本 お互い “萌え” へのこだわりを大事にしていきたいですね。

“萌え” を感じる谷本視点は、筋肉と汗と芝生。

星野 ちなみに、例えばラグビーの写真だと、どんなところが “萌え” ポイントだったりしますか。
谷本 スクラムやモールの形がカッチリできていてフレームに収まっているシーンや、攻撃や守備のラインがきれいに整っているシーン。本当にラグビーは美しい、写真映えするスポーツだと思います。他のスポーツより、バリエーションがあるようにも思いますね。あとは、ものすごく細かいですけど、躍動感のある筋肉美とか造形美とか。
星野 ラグビーやムエタイという、激しくて男くさいスポーツが好きなんだなと思っていましたけど、実は筋肉フェチですか?
谷本 否定できません。実は、競走馬も好きなんです。躍動する筋肉とか、全身の筋肉を使って全力で疾走していると分かる汗が、美しいと感じます。賭けはしないのですが、これはもう完全に趣味で、競馬場へ行くときはカメラを持たないことの方が多いですね。
星野 まさかの馬!ラグビーとムエタイと競馬の共通点は……筋肉と汗、あとラグビーと競馬は芝生も共通してますね。筋肉と汗と芝生、 “萌え” ますか?
谷本 そんな共通点を意識したことはありませんでしたけど、ありましたね、共通点。そして間違いなく、そこに “萌え” はあります。
星野 競馬も好きで、通い続けて、 “萌え” て。そのうちカメラを持たずにいられなくなって、競馬も仕事として写真を撮るようになっている未来が想像できます。
谷本 それはそれでうれしいですけど、複雑ですね。純粋に観るのが好きなだけの趣味もとっておきたい気もします。

座右の銘は「人に誠実に。」

仕事がデキることと、

対人スキルは同じくらい大事。

星野 これからどんなスポーツを撮ってみたいとか、どんな写真を撮りたいというのはありますか。
谷本 基本は、やはりラグビーです。来年(2019年)にはラグビーワールドカップが日本で開催され、そこで写真を撮ることが夢のひとつなので。まだまだ足りない未熟者ですが、オファーをいただけるようにがんばりたいです。あとは最近、アイスホッケーの仕事をいただいて、好きなスポーツに加

わったので、続けていけたらうれしいなと思っています。

星野氷上の格闘技って言われてますよね、アイスホッケーは。
谷本また格闘技系のスポーツですね。やっぱりそっち系が好きみたいです。
星野そんな、見た目女子力高いのに、男臭いスポーツが大好きで、男らしい性格の谷本さんが、仕事をする上で大切にしていることは?
谷本少し前に、卒業した専門学校で、先輩カメラマンとして講演を頼まれたとき、学生から同じような質問を受けました。その質問は、カメラマンとしてやっていく上で必要なものは何かというものだったのですが、私は迷わず「対人スキル。人あたり良く、いつもニコニコしていること」と答えました。写真のレベルが求められるものを満たすだけの技術を持っていることは当然だし、求められる以上のものを撮れることがプロとして大前提にあります。それらは必要なことではなく、あたり前のこと。では同じレベルのカメラマンが複数いたとしたら、誰に仕事のオファーが来るか。レベルが同じであれば、人あたりが良い人と仕事をしたいと誰もが思いますよね。そうやってふるいに掛けられて淘汰されていくのだと、私は思います。だから、学生にもそう伝えました。
星野それもすごく共感できる。
谷本私の座右の銘は「人に誠実に。」なんです。

星野その言葉、グッときました!(笑)。お互い、心に響く共通言語があって、思った以上に面白くて有意義な対談ができてうれしいです。刺激にもなったし。ありがとうございました。
谷本私も、星野さんといろんな話ができてうれしかったです。またラグビー場でお会いするのを楽しみにしています!

専門学校時代、卒業制作の課題のために訪れたタイで出会ったムエタイ。ファンになったきっかけは、ルンピニー・スタジアムでマキ・ピンサヤーム選手の試合を見てから。技の華麗さやスピード感、躍動する筋肉など、とにかくカッコよくて!当時から、24歳の若さで脚光を浴びていたムエタイ界のスーパースターでした。今ではキックボクシング界でも超有名になってしまいましたが、もちろん今もファンです!日本のジムにトレーナーとして所属しているので試合があれば積極的に会いに行っています。選手のファンからムエタイのファンになりましたが、ムエタイって他の格闘技とは違う背景を持っているのも興味深いんですよね。タイの国技なのに賭けの対象にもなっている。だから日本の格闘技ファンとは一線を画す玄人ファンばかり。アンダーグラウンドな雰囲気も面白いなと思いましたし、ムエタイの精鋭選手となっている選手たちは皆、子どもの頃から親元を離れてジムに所属し、這い上がっていくというストーリーもすっごくカッコイイ!と(笑)。タイの本場のムエタイはなかなか観に行けませんけど、日本でキックボクシンを観て、撮って、同じ雰囲気を堪能しています。

  • Design tekuiji DESIGN
  • Photograph Indigohearts
  • Writer writer Moki